活用のヒント

監修者の黒上先生をはじめ、「NHK for School 考える授業やるキット」の制作・執筆陣による教科別の活用のヒントを掲載。
※所属・肩書きは執筆当時のものです。

関西大学総合情報学部 教授 黒上 晴夫

関西大学総合情報学部 教授

黒上 晴夫

 知識か思考か、知識か探究かという不毛な議論をたまに見聞きします。思考や探究の大事さについてはおそらく共通認識があるのだと思いますが、知識のとらえ方がちがっています。まずは探究や思考に必要な知識を身につけるべきだというとらえ方と、知識は探究や思考によって身につくというとらえ方です。結論から言えば、どちらも本当です。楽器の練習では、指の訓練も必要だし、曲を演奏することも必要なのと同じです。

 しかし、学校では知識を与える時間しかない、という声も聞こえてきます。それでも両立を図るには、いかに効率よく知識と出会わせ理解させるか、いかに考えるポイントを絞り込むか、が重要だということになります。「考える授業やるキット」の作成においては、まず単元のどの部分で児童の考えを要求すべきかを検討しました。そして、そこで放送番組によってどのような情報を提供し、それをどのように整理させ、そこからどのように思考を展開するとよいかをステップとして示しています。
 先生方にとって便利なのは、これらの授業展開で児童に提示したい動画、静止画像、資料、思考ツール、記入シート(ワークシート)を、各学校で使っている授業支援アプリに最適化できることです。
 以下では、教科別に、考えることに関わる作成のねらいを掘り下げてみましょう。

黒上先生から「考える授業やるキット」理科について

 学習指導要領の目標における「思考力・判断力・表現力」の項目には、3年生で「主に差異点や共通点を基に、問題を見いだす力を養う」とあります。これに対応して、考える授業やるキットでは、「ふしぎを見つける」ことを思考の中心としています。

 どうしたらふしぎを見つけられるのかをテーマにしているのが、シリーズ最初の番組「ふしぎを見つけるには?」です。子どもたちには、どんなふしぎに気付いて欲しいのでしょうか。「あれは何だろう?」「どうしてそんな形なの?」というようなものも「ふしぎ」にはちがいありませんが、3年生では、差異点や共通点を基にしたふしぎを見つけて欲しいというのが番組の趣旨です。それは、「○○は同じなのに△△がちがっているのはどうしてだろう?」や、その逆の「△△はちがっているのに○○が同じなのはどうしてだろう?」というような形になります。具体的には、「同じものの影なのに、長さや方向がちがっているのはどうしてだろう?」というようなふしぎです。どの番組でも、そのような疑問を見つけ出して表現することを、やるキットでは大事にしています。

 4年生の目標には、「根拠のある予想や仮説を発想する力を養う」とあります。3年生で培った力を使ってふしぎを見つけ、さらにその答えを予想します。その時に、自分なりに予想の根拠を示します。根拠となるのは、日頃の経験や観察から気付いたこと(比較や関係付け)、よく似た現象や状況で気付いたこと(類推)などです。やるキットは、そのような「予想の手がかり」に注意を向けて、各自が根拠のある予想や仮説をつくることを大事にしています。

黒上先生から「考える授業やるキット」社会について

 学習指導要領の目標では、「社会的事象の特色や相互の関連、意味を多角的に考えたり、社会に見られる課題を把握して、その解決に向けて社会への関わり方を選択・判断したりする力、考えたことや選択・判断したことを適切に表現する力を養う」とあります。

 各単元では、①多面的に見て自分なりの考えをもつ、②社会の課題に対する社会の取り組みを自分との関係でとらえ直して関連付ける、という2つの思考場面が重要で、さらにはそれを③人に伝えることも求めているということです。

 多面的に見るためには、Yチャートのように複数の視点を設定できるツールが有用です(例:「世界の人々とともに生きる」)。対象を複数の視点から評価するためには、PMIが使えます(例:「三権の役割」)。

 関連付ける場面では、番組で得た情報を整理して少し抽象的な概念にまとめることが中心になります。そのために、クラゲチャートが使えます(例:「平和主義・世界の国の人々」)。自分の主張や意見が、どのような具体的な事例によって裏付けられているかが見やすくなります。ピラミッドチャートは、根拠→理由→主張の筋道を3段階で表します(例:「日本国憲法」)。

 番組の情報を思考ツールの上に一覧して整理したあとは、自分の考えを文章にまとめます。伝える段階ですね。そのための問いも提供されています。

 このように、やるキットは、6年生の社会科で求められている思考→表現の流れを大事にしています。

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